嚥下とは何か
嚥下(えんげ)とは、食べ物や飲み物を口に入れてから、 のどを通り、胃まで送り届けるまでの一連の動作をいいます。 普段は意識することがありませんが、実は およそ30の筋肉と、5つの脳神経が コンマ数秒の単位で連携する、極めて精密な動きです。
この動作は、大きく次の段階に分けて考えられています。
| 段階 | 起きていること |
|---|---|
| 先行期 | 目で見て、においを感じ、何をどう食べるかを判断する |
| 準備期 | 口に入れ、噛み、唾液と混ぜて飲み込みやすいかたまりにする |
| 口腔期 | 舌を使って、食べ物をのどの奥へ送り込む |
| 咽頭期 | 飲み込みの反射が起き、気管の入り口が閉じて、食道へ送られる |
| 食道期 | 食道のぜん動運動によって胃へ運ばれる |
どこか一か所でもうまくいかなくなると、 飲み込みにくさや、むせが生じます。 これを嚥下障害といいます。 「のどが悪い」という単純な話ではなく、 どの段階で、何が起きているのかを見極めることが大切です。
こんな変化はありませんか
嚥下の力は、ある日突然失われるのではなく、少しずつ変わっていきます。 次のような変化は、そのサインかもしれません。
- 食事中や食後に、むせることが増えた
- 食後、声がガラガラ・ゴロゴロした感じになる
- 食事に以前より時間がかかる、途中で疲れてしまう
- 飲み込んだあとも、口の中に食べ物が残っている
- 固いものを避けるようになり、食べる品目が減った
- 体重が少しずつ減っている
- 原因のはっきりしない発熱を繰り返す
- 痰が増えた、痰の色が変わった
誤嚥性肺炎はなぜ起きるのか
食べ物や飲み物、唾液が、食道ではなく気管に入ってしまうことを 誤嚥(ごえん)といいます。 そして誤嚥したものに含まれる細菌によって肺に炎症が起きた状態が、 誤嚥性肺炎です。
ここで見落とされやすいのは、 誤嚥性肺炎の原因は「食べ物」だけではないという点です。 睡眠中に、口の中の細菌を含んだ唾液が少しずつ気管へ流れ込むことでも起こります。 食事をしていない方が誤嚥性肺炎になるのは、このためです。
つまり、肺炎を防ぐために必要なのは、次の3つを同時に進めることです。
誤嚥を減らす
姿勢、ひと口の量、食形態を、その人に合わせて整える。
悪い細菌を減らす
口腔ケアを徹底する。食後だけでなく、食前にも意味があります。
抵抗する力を保つ
栄養状態と全身の筋力を保つ。唾液ケアを行うことも重要です。
上記3つの全てに注目してください。全ての要素は密接に絡み合っています。 「危ないから食べさせない」という判断が、栄養状態を悪化させ、 全身の筋力とともに飲み込む力まで落としてしまい、 結果として肺炎のリスクを高めてしまうことがあります。 安全を優先したはずの選択が、逆の結果を招くのです。
できることは、たくさんあります
嚥下障害があるとわかったとき、 「もう普通には食べられない」と受け止められてしまうことがあります。 しかし実際には、条件を整えることで食べられる範囲が広がる方は 少なくありません。
姿勢を整える
もっとも効果が大きく、もっとも忘れられやすいのが姿勢です。 あごが上を向いていると気道が開きやすくなります。 あごを軽く引いた姿勢を保つだけで、飲み込みが楽になる方がいます。
食形態を合わせる
「やわらかくすれば安全」とは限りません。 水分でむせる方にはとろみが有効ですが、 口の中でばらけやすいもの(そぼろ、刻んだだけの野菜など)は かえって難しいことがあります。 原因に応じて選ぶことが大切です。
口の中の状態を整える
歯だけでなく、舌、頬の内側、上あごまで。 入れ歯は毎日外して洗います。 口腔ケアは、肺炎予防としてもっとも確実な手段のひとつです。 また、唾液の質と量に着目して行う「唾液ケア」も、非常に重要な意味を持ちます。
食事の環境を整える
テレビを消し、食事に集中できるようにする。 ひと口を飲み込みきってから次を運ぶ。急かさない。 こうした小さな配慮の積み重ねが、リスクを下げます。
医師の判断の下で実施を検討してください。
評価するということ
ここまでお読みいただいてお気づきかもしれませんが、 対応の方針は「何が原因で飲み込みにくいのか」によってまったく変わります。 とろみが有効な方もいれば、とろみが逆効果になる方もいます。
だからこそ、評価が必要です。 嚥下は外から見えないため、経験や印象だけで判断すると、 どうしても安全側──つまり「食べさせない」側へ判断が寄りがちになります。
株式会社嚥下の未来では、ポータブルエコーを用いて 飲み込みの状態をその場で確認する取り組みを行っています。 被ばくがないため繰り返し実施でき、ご自宅のベッドサイドでも行えます。 画面をご本人・ご家族と一緒に見ながら、 今どうなっているのかをご説明します。
「もう食べられない」と結論づける前に、 どうすれば食べられるかを一緒に探させてください。
飲み込めなくても、豊かな“食”と人生はある
ここまで、飲み込む力をどう支えるかをお伝えしてきました。 そのうえで、私たちがもうひとつ大切にしている考え方があります。
“食”は、栄養を摂り、命をつなぐための営みです。 けれども、私たちが“食”に心惹かれるのは、それだけが理由ではありません。 口に含んだ瞬間に広がる味わい、鼻に抜ける香り、器の彩り、旬を告げる食材。 故郷の味や、大切な人と囲んだ食卓の記憶。 “食”のよろこびの多くは、飲み込むことの外側にも広がっています。
“食”を形づくるもの
身体
栄養と水分を、生きる力に変える。
心
味わい、香り、季節や思い出を楽しむ。
口
噛み、まとめ、味を感じる入口。
つながり
誰かと食卓を囲み、言葉を交わす。
だからこそ私たちは、 飲み込めるかどうかと、“食”を味わえるかどうかは、別のことだと考えています。 病気や加齢によって飲み込む機能が変わっても、 その人の人生から“食”が消えるわけではありません。 好きな料理の香りを楽しむこと。家族と同じ食卓に着き、季節の話をすること。 かつて囲んだ食卓の思い出を語り合うこと。 そこには確かに、“食”のある風景があり、豊かな時間があります。
私たちが大切にしている、二つのこと
飲み込む力を、大切に守る
嚥下の状態を正しく知り、口腔内環境を整え、その人に合った食事の形を整えること。
飲み込めるかどうかだけで、人生の豊かさを測らない
飲み込む力の有無にかかわらず、その人にとっての“食”のよろこびを探し続けること。
飲み込む機能を大切に守りながら、たとえその機能が失われても、 一人ひとりが“食”のよろこびに触れ続けられるように。 医療・介護・食の専門職、そしてご本人やご家族とともに、 その方法を一つずつ探り、形にしていく。 それが、株式会社嚥下の未来の願いです。
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本ページは一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の診断・治療方針を示すものではありません。 気になる症状がある場合は、必ずかかりつけの医師・歯科医師・訪問看護師にご相談ください。